ニチイ

研究1 地域における通所介護の役割について検証した研究

~家族支援に向けた提言~

発表者
大嶌 里美

ニチイケアセンター湘南銀河(通所介護)

研究にいたる背景

「通所介護」とは、お客様がデイサービスに通い、当該事業所において、入浴・排泄・食事等の介護、日常生活等に関する相談及び助言、健康状態の確認その他日常生活上の世話や機能訓練を行うものと定義されている。

平成27年度の介護報酬改定では、通所介護は心身機能向上から生活機能の維持・向上訓練まで総合的に行うことにより、自立した在宅生活を継続するサービスとして期待されている。本研究は、通所介護において地域における通所介護の役割を明確にするために、一事例を通しての取り組みを検証した。

研究目的

地域において通所介護が果たすべき役割を明確にする

研究方法

通所介護サービスの提供を通して、「お客様の社会参加、心身機能、生活機能の向上と意識・意欲を取り戻す」ことと、「ご家族の介護負担感の軽減に繋がる」ことの関係性を検証した研究。

仮説

  • 通所介護サービスの機能を適切に実践し、お客様の社会参加の促進と心身機能、さらには生活機能が維持・向上することで、家族の負担軽減に繋がるのではないかと考えた。
  • 仮説1の取り組みを検証してまとめ、他のお客様にも活用し、他の通所介護事業所に提言していくことで、地域において通所介護が果たすべき役割が明らかになるのではないかと考えた。

研究対象者の選定

本人は脳梗塞の後遺症で身体機能が低下し、閉じこもりの状態にあり、ご家族(妻)が介護負担で疲弊していたA様を研究対象者として選定した。

研究対象者

  • A様:男性、70代、要介護4、現病:脳梗塞発症後右半身麻痺(平成22年)、認知症無し。5ヶ所の通所介護サービスを利用したが続かず、引きこもりがち。性格は意志が強く、頑固。指示的なもの言いに拒否的な態度。
    競争心が強く、負けず嫌い。職業:公務員(刑事)、平成27年1月よりニチイケアセンター湘南銀河(以下、NC湘南銀河)を利用開始。
  • ご家族(妻):70代、現病なし。A様の脳梗塞発症後、主介護者として介護にあたる。子ども達とは別居。

研究方法

A様とご家族(妻)に対する介入研究

  • 研究期間:平成27年7月~平成27年10月
  • 実施内容
    • 社会参加の促進
    • 機能訓練
    • 家族の負担軽減
  • 評価方法:NC湘南銀河の利用前・後について、比較検証を行う。
    • A様のサービスに対する気持ちの変化を事前・事後のインタビューを行い、比較・検証。
    • 「身体機能(機能訓練のデータ)」および「生活機能」を比較・検証。
    • ご家族(妻)に介護負担について事前・事後にアンケートを実施し、比較・検証。

仮説1の取り組み

実施内容1 社会参加の促進
  • サービス利用開始までの取り組みとして、次の4つの取り組みを実施。
    • 担当ケアマネジャーより、以前のサービス利用時の状況や経緯を詳細に確認。
    • A様宅の訪問を繰りかえし、直接A様に挨拶や声掛けを行った。
    • A様の様子や性格、生活歴、在宅での様子、趣味嗜好等、A様の内面を深く掘り下げるアセスメントを行い、課題を分析。
    • 職員間でアセスメント結果を共有し、A様を尊重した対応を行い、サービス内容を検討。
  • サービス利用開始からの実践内容として、次の3つの取り組みを実施。
    • 「ニチイの認知症ケア(家族支援)」受講を踏まえ、送迎時にA様の心情に合わせた声掛けを継続し、信頼関係を構築。
    • A様の個性を活かし、他のお客様と切磋琢磨し合えるレクリエーションや機能訓練の取り組みを説明して意欲を引き出し、動機付けを行った。
    • A様に対する尊敬の気持ちを持ってコミュニケーションを図り、他のお客様との会話につなげた。
  • 評価方法:A様の主観として、サービスに対する気持ちの変化について、事前と事後にインタビューを行い、結果を比較・検証。
  • 事前調査の結果 A様は、以前利用していた通所介護では基本的なサービスにおいて個別性の配慮がされていなかったと感じていたようであり、楽しみや他のお客様との会話も持てず、全体的に低い評価だった。
  • 事後調査の結果 全項目で高い評価となり、A様は、通所介護に通うことで、行事やレク等に参加し、交友関係が活発になり、A様らしい日常生活を取り戻すことができ、サービスに満足されている様子がうかがえる。
実施内容2 機能訓練
  • A様の生活課題や麻痺の程度、可動域等の身体状況や病歴等のアセスメントを実施。
    医師、訪問マッサージ、担当ケママネジャーと連携して各専門職からの意見を検討し、個別機能訓練計画を見直した。
  • A様のニーズとして「利き手でスプーンやフォークを使用し、食事がしたい」との生活ニーズに対し、手のひらのマッサージ、ボールを掴んでは置くという運動を実施。 また、「入浴中にかけ湯が自分でできるようになりたい」との生活ニーズに対しては、セラバンドを使用した腕上げの運動30回を実施。
実施内容3 家族の負担軽減
  • A様に対する社会参加の促進の取り組みと、心身機能と生活機能の維持・向上(機能訓練)により、ご家族(妻)の負担軽減を図った
  • ご家族(妻)と信頼関係を構築することで、一人で介護に当たっているご家族に安心感を持って頂くよう取り組んだ。
  • 評価方法
  • 精神的負担感の変化を調べるため、「介護負担感尺度」を使用。
  • 身体的負担感の変化を調べるため、「ADL別介護負担感調査票」を使用。
ADL別アンケート結果(グラフ化)
  • ADL別アンケートは、点数が高いほど精神的・身体的に介護負担度が高いことを示す。
  • 整容をみると、事前(青の棒グラフ)では21点で負担に感じていたが、事後(赤の棒グラフ)は3点まで減少し、ご家族の負担軽減につながったことがわかる。
  • 全体的にも、介護の負担軽減につながっていることがわかる
介護負担観尺度 アンケート結果(グラフ化)
  • RS尺度(介護を始めたことで今までの生活が出来なくなったことから生じる負担感)は、点数が高いほど精神的に介護の負担度が高いことを示す。
  • 項目2.12.13から、ご家族(妻)が自分らしい時間が持てるようになったとわかる。
  • PS尺度(介護そのものから生じる負担感)についても、点数が高いほど精神的に介護の負担度が高いことを示す。
  • 項目8「介護を受けている人は、あなたに頼っていると思うか」、
    項目14「介護を受けている人は、あなただけが頼りというふうに思うか」
    という設問については、事後調査においても依然として高得点であることが判明。
  • 通所介護に通ってもご家族は、「頼られている」という意識は軽減しないことが明らかになった。このことは、夫が妻を頼っていたり、妻も夫に頼られているという共存する感情がADLの高低にかかわらず、変化しないことが明らかになった。
  • A様の心身機能と生活機能が向上し、できることが多くなるに従い、ご家族の介護負担感は反比例して負担感が軽減していくという関係が明らかになった。
アンケート結果分析
  • A様が通所介護に単に通うだけでなく、生活機能の向上が相乗効果となってご家族(妻)の介護負担の軽減に繋がった。
  • ご家族の使命感や責任感に対しての心理的配慮が継続して必要であると分かった。
実施内容1 社会参加の促進【結果】
  • 以前はサービス利用が一月以上は続かなかったA様だが、利用回数が3回から4回に増加。
  • A様は、他のお客様と会話を楽しまれ、体操やレクリエーションに毎回参加されるまでになった。
  • A様は、通所介護サービス利用時以外でも、ご家族(妻)との散歩の際に地域住民と挨拶をするなど交流が持てるようになった。
実施内容2 機能訓練の取り組み【結果】

1. 個別機能訓練計画の見直しを行った9月を境に徐々に回数が増加。

  • セラバンドを使用した腕を上げる運動は当初30回から平均32.2回まで増加
  • 右手ボール掴みの運動は、当初20回から平均24.8回まで増加

2. A様は入浴時に上半身の衣類を自分で脱ぐことが出来るようになり、スプーンやフォークで食事が出来るようになった。

3. 平成27年11月、認定更新の結果、要介護4から要介護3に改善。

実施内容3 家族の負担軽減【結果】
  • A様の機能訓練の成果により心身機能と生活機能が向上したことで、ご家族(妻)の身体的負担が軽減。
  • A様の社会参加の促進により、ご家族(妻)の精神的負担が軽減。
  • ご家族(妻)が、趣味活動や知人との交流を再開し、本人らしい生活ができるようになった。
仮説1のまとめ

A様の個性を尊重した取り組みにより、信頼関係を築き、社会参加の意欲を引き出し、通所介護に単に通うだけでなく生活課題を踏まえて医師等と連携した安全で効果的な機能訓練を行い、生活機能の向上を図ることが家族の負担軽減に繋がると明らかになった。

仮説2の取り組み
地域の通所介護に対する取り組みの提言
  • お客様をお預かりするだけではなく、社会参加の促進と生活機能の維持・向上の取り組みにより、家族の負担軽減に繋げる。
  • 地域社会の一員として自治体や近隣住民等と連携し、地域全体で高齢者と家族を支える。
  • 地域の他事業所と連携し、通所介護の役割を明確にし、地域全体の通所介護の質の向上を目指す。
  • 通所介護事業所で、家族支援の講座や家族への相談援助等を行い、地域の高齢者や家族が抱える課題を早期発見し、在宅生活の継続に繋げる。

考察

  • 社会参加の促進
    通所介護の継続利用が活動意欲を活性化し、社会参加の促進に繋がったと考える。
  • 機能訓練
    A様の心身機能の改善が生活機能の向上に繋がり、家族の負担軽減に繋がったと考える。
  • 家族の負担軽減
    A様が通所介護に通うだけでなく、生活機能の向上が相乗効果となり、ご家族(妻)の介護負担の軽減に繋がったと考えるが、ご家族(妻)の使命感や責任感に対しての心理的配慮が継続して必要だと考えた。

結論

社会参加の促進と心身機能の維持・向上(機能訓練)を効果的に行い、実践することで、生活機能の維持・向上が相乗効果となり、家族の介護負担軽減に繋がる。しかし、介護者の使命感や責任感に対しての配慮も継続して必要である。

通所介護において、「家族の身体的及び精神的負担の軽減を図る」とは、お客様が通所介護に通われている間の家族の負担軽減を図るものだけではなく、お客様が機能訓練を受け、生活機能の維持・向上を図っていくことで、自立した生活を送ることが、ご家族の精神的・身体的負担軽減に繋がるものと考える。また、地域の中でそれぞれの通所介護事業所が機能を果たすことで、地域全体の高齢者とご家族の生活を支える拠点としての機能を発揮できると考える。

参考・引用文献

  • 介護負担感に影響を与える要因―ADLの視点から―.西井正樹.関西福祉科学大学.2011
  • 「ADL別介護負担感調査票(p96.表1.西井正樹)」「Zarit介護負担尺度 日本語版(p99.表4)」
  • 介護サービス利用者アンケート結果について.平川市社会福祉協議会.2011
  • 制度改正の内容から読み解く!個別機能訓練計画書作成の留意点.心身機能訓練・レクリエーション研究所.藤田健次.2015
  • 厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会『平成27年度 介護報酬改訂に向けて(通所系サービス、訪問系サービス等について)』