ニチイ

研究4 認知症高齢者の隠れた可能性を引き出す試み

~ニチイのドッグセラピー~

発表者
古田 早苗

ニチイケアセンターこうだ

研究にいたる背景

以前は、親・一社会人として役割を持ち、人の役に立つという自信を持って生活をされていた高齢者の方々が、認知症になり「与える存在」から「与えられる存在」となられ、意欲が低下しているのではないかという思いがあった。

あるお客様K様は、意欲低下が著しく臥床時間が増えてきたが、セラピー活動には意欲的に参加されていたため、セラピー犬訪問時に出迎える『役割』を持って頂いたところ、意欲的な笑顔が見られた。

このことから、自らの役割を持つことで達成感や満足感を得て自信を回復することにより、認知症高齢者の隠れた可能性を引き出す試みとしてドッグセラピーによる介入を研究テーマとした。

研究目的

ドッグセラピーを活用し、「認知症高齢者の隠れた可能性を引きだす」試みを行った。

研究方法

前提:
「ニチイケアセンターこうだ」では、平成26年3月よりオーストラリアンラブラドゥードル「ランチ」の週二回訪問、今年度より「ゴンゾ」の月二回訪問を受け、ニチイのドッグセラピーを行っている。

仮説

ドッグセラピーを通じて役割を持ち、これと共にドッグセラピー以外の日常生活の中で役割や目標を持つことで達成感・満足感を味わい、自信を回復する。ここから「隠れた可能性」を引き出すことができるのではないか。

期間

平成27年8月1日(土)~平成27年10月9日(金)

研究対象者の選定及びアセスメントの実施

研究対象者を4名選定し、アセスメントを実施した。
アセスメントは、計画作成担当者によるセンター方式に加えて全スタッフが対象者になりきって記載する「アセスメント補助シート」を本研究独自のシートとして採用。

対象者の役割設定

アセスメントの結果を受けて、各対象者に合った「ドッグセラピーにおける役割」と「個別活動(日常生活の中での役割や目標)」を設定。

効果測定項目の決定

  • 測定項目をA.社会的、B心理的、C身体的に分け、「事前・事後効果測定シート」に位置づける。
  • 各対象者の役割については、他者との関わりが大きいことを鑑み、A社会的に位置づける。
  • その他「日常レクリエーション実施表」の作成、記録と合わせて介護記録やスタッフからの聞き取りにより効果を測定する。

ニチイのドッグセラピープログラムの実施

週3回、午前中1時間のプログラムを実施。集団プログラムの中で4名それぞれの役割を行う。

事前、事後効果測定

研究の第1週目の測定数値を事前測定結果とし、研究最終週の測定数値を事後測定結果とする。測定数値として現れない効果は「日常レクリエーション実施表」、「介護記録」「スタッフからの聞き取り」内容を検証する。

結果

  • 事前・事後効果測定シートの結果からドッグセラピーにおける役割への意欲について、個人差はあるが、全体として事前より事後の方に意欲の向上が見られた。個別活動(日常生活の中での役割や目標)への意欲についても、事前より事後の方に意欲の大幅な向上が見られた。
  • 対象者によっては、認知症の影響もあり、意欲の向上が数値としては現れていない場合もあったが、他者とのコミュニケーションの増加や表情が明るくなられたこと、また不適応行動の減少など、以前との変化が現れている。
  • 「隠れた可能性を引き出す」という効果としては、以前はうつ傾向にあり、引きこもりがちであった対象者が調理の際に自ら手伝いを申し出られ、入所以来、されたことのない包丁をもって調理されるなど、これまでスタッフも気が付いていなかった可能性を引き出すことができた。

考察

  • ニチイのドッグセラピーを通じて役割を持っていただき"与えることの喜び"を味わってもらい、達成感や自信に繋がることで、日常生活における役割や目標についても、個人差はあるが、意欲の向上が見られた。
    特に日常生活における役割については、役割を設定する際に、アセスメントから得られた情報をもとに、よりその人に合った役割や生活リズムに合わせた役割を設定できたことも意欲の向上につながった要因であると考えられる。
  • 測定結果については、認知症の程度によると考えられるが、研究対象者の表情の変化や日常の様子の変化からは明らかに意欲の向上や社会性の向上が感じられる。
  • 一部の対象者では、測定項目以外の部分で「隠された可能性」を引き出せたといえる結果が得られたことについては、役割を果たすことで達成感を感じ、自信を回復できたことによる影響があると考えられる。

結論

  • 認知症高齢者の方がドックセラピーにより「与えることの喜び」を味わうことをきっかけとして、日常生活で自らの役割を持ち、達成感や満足感を得、自信を回復することができた。更にこの自信の回復が、認知症高齢者の「隠れた可能性を引き出す」ことへとつながった。
  • 適切なアセスメント・観察・発見・関わり・情報共有により 見過ごされている、"有する能力"に気づき、引き出すことができるということをスタッフが認識し、可能性をあきらめずに、考え、工夫をしていくことが大切である。
  • ドッグセラピーは認知症高齢者への支援方法の一つとして有効な手段である。お客様の援助目標達成のためには、アセスメントに基づき包括的に援助することが重要である。
  • 今回の研究はグループホームにて実施したが、この研究で得られた結果は、他のサービスでも十分に活用できるものである。認知症ケアの一つの手段として全サービスが共通認識を持ち、ドッグセラピーを効果的に活用していくことが求められる。