ニチイ

事例6 助けてください!!

~介護とリハビリの相乗効果~

発表者
名取 洋平(介護職員)
明慶 晶子(介護職員)
近藤 宏美(作業療法士)

ニチイホーム栗平(有料老人ホーム)

お客様プロフィール

T様 / 90代 / 女性
要介護度 要介護3
課題
  • 認知機能低下からくる被害妄想がみられました。
  • 精神的・身体的な不安からくる大声・暴言がありました。
  • 更衣・服薬など介助に対する抵抗がありました。

取り組み

仮説

  • 計算問題・書字記入により脳を活性化し、認知機能の維持・改善を図ることで被害妄想の解消につながると考えました。
  • 筋力リハビリを行うことで身体的機能が向上し、ご本人の自信・やりがいが生まれると考えました。さらに、整容動作を行うことによって精神的に安定し、大声・暴言が軽減されると考えました。
  • 職員とのコミュニケーションで、信頼関係の構築を図り、介助に対する抵抗が無くなると考えました。

取り組み内容

  • ご本人の関心が高かったため、計算問題等や書字記入を継続して実施することで、足し算・引き算・掛け算と徐々にレベルを上げての実施や、ご家族への思いを文章に表すことも可能になりました。徐々に自分の名前も思い出せず考え込むようになったが、「自分の名前ぐらい書けないとね。」とより前向きな姿勢で向かわれるようになりました。
  • 作業療法士によって作成された下肢筋力強化リハビリを毎日実施しました。立位時間の延長、自主的な姿勢の改善や、「もっと続けないと歩けるようにならないよ」と前向きな言動が見られたため、継続して実施しました。
  • 整容動作を行うことによって精神面が安定し、笑顔が見られた為継続しました。
  • 上記2点を1対1で実施。立ち上がりの介助や声かけにて「自分を助けてくれる存在」と認識してもらえるよう心がけたところ、次第に職員への信頼感が増しつつあると思われたので、継続して実施しました。

結果

  • 計算問題・点つなぎや塗り絵などの認知機能保持訓練を積極的に取り組んだ結果、「ご飯をくれない」といった被害妄想を思わせる発言が減少しました。
  • 下肢筋力強化リハビリを継続した結果、股関節屈曲度が広がったためか、介助無しで立てることが多くなりました。さらに立位時間が2倍に伸びるなど身体的能力の向上が見られ、不安が軽減されたためか大声・暴言が少なくなりました。
  • 整容動作を行うことによって精神面が安定し他のお客様と談笑する姿がみられました。
  • 日常生活において職員にご自分の意思を伝えるなど、信頼を寄せるようになりました。また、それに伴い、介助に対する抵抗がなくなり穏やかな生活が送れるようになりました。

考察

転居当初は職員とコミュニケーションが取れにくく、介助が困難でした。また、「どうなったっていいんだよ!」といった否定的な言動も見られる反面、「助けてくださいよ~!!」と叫ばれることも多くありました。私達はその内面を探り、ご本人が真に望んでいることを汲み取ることを心がけた結果、「助けてください」は「穏やかな日々を送りたい」という気持ちの表われではないかと考えました。そこでご本人の不安解消に特化したリハビリを継続することによって、「歩きたい」という前向きな目標を表現したり、さらに心に余裕が出来たためか、職員のみならず他のお客様にご自分から話しかけられる場面も見られたりするようになりました。以上の点から、生活意欲・身体機能の向上と、職員とお客様との信頼関係の構築の間に相乗効果があると考えます。

結論

この事例研究を通して、1対1で接することによってお客様の中に職員に対する信頼感が生まれました。身体的動作が安定したことで心の平静を目指して、他のお客様と談笑される場面も見られるようになりました。新たな信頼関係の構築の場として、他のお客様とのコミュニケーションが図れるよう援助していくことで、共に励まし、喜び合う事ができるようになるのではないかと感じます。そのために、コミュニケーションの場を広げ、楽しみを見つけていただけるよう、レク・作業療法を充実させ職員一丸となって支援していきたいと思っています。